塩素泉

8月3日、尾花沢徳良湖温泉「花笠の湯」がオープンした。
ここ10年ぐらいの間に、こうした日帰り温泉施設が続々オープンしている。
こうした傾向は僕のような温泉好きにはたまらないが、その一方で山形の温泉事情に対する不満も多い。

まずその一つが、温泉の「骨抜き化」だ。
厚生省でも是正の動きが出ている「温泉成分表」のことと関係するが、源泉に加水またはろ過し、さらに衛生上たっぷりと塩素を加えて、湯船にお湯を供給する施設がこっそりと増えている。
僕はこれを「塩素泉」と呼んでいるのだが、増えているからこそ「うちは“100%源泉かけ流し”です」などと、当たり前のことをアピールする例も目立つようになって来たのである。

つまり「温泉成分表」は源泉の湧き出し口で検査した結果を表示しているが、湯船のお湯の注ぎ口から出る頃には、先に延べたように、成分表に表示された温泉とは似ても似つかぬものになっている。
これって、不当表示じゃないの?と思う。
一種の詐欺行為にも近い気がする。
食品関係の成分表にならうなら、「源泉はこうですが、湯船のお湯はこうです」と、加工内容(加水やろ過)や塩素混入による源泉との成分の変化(違い)をきちんと明示するべきだ。

以前はいい泉質だった温泉が「塩素泉」になっていてがっかり…という施設もある。
おしかりを承知で僕が把握している「塩素泉」を紹介してみよう。
別に紹介しなくても、浴室に入った時にぷーんとプールのような匂いがするからすぐにわかるのだが、いろいろ聞いてみると意外に気にしていない人が多いようだ。
念のために言っておくけれど、衛生上は塩素を混入した方がいいのだろうし、保健所の指導があって義務付けられ、しかたなく…といった施設もあるので、すべての「塩素泉」を敵視しているわけではない。
繰り返すが、温泉成分表に「食塩泉」とか「芒硝泉」とか「硫化硫黄泉」とか表示しているにもかかわらず、湯船のお湯の実態は「塩素泉」…ということが問題なのだ。

【山形「塩素泉」一覧】

・うわの天神温泉(山形市)
浴室に入ってすぐ左側(男湯の場合)に「源泉」としてちょろちょろ出ているのがまさに源泉。茶色がかって風味もいい。湯船のお湯と比べたし!

・神室温泉(金山町)
以前は素直で優しい温まり湯でとても心地よい温泉だった。今は塩素の匂いが浴室に立ちこめる。聞くと、保健所の指導で塩素濃度を決められているそうだ。

・パレス松風(白鷹町)
改装前は気味が悪いほどアクの強い温泉だった。好き嫌いは確かにあると思うが、新装後は完ぺきな塩素泉。ただ、浴室内に「衛星のため塩素を入れています」と明示してあるのは良心的だと思う。

・湯の台温泉(鳥海山荘/八幡町)
もとの山荘に湧くお湯は茶褐色で鉄分が強く、タオルが茶色になってしまうほどだった。今は無味乾燥、温泉の面影はまったくないただの「お湯」。

自然は人間の都合を考えていない。
だからこそ畏れも生まれるし、癒しもある。
人間に都合の良い「人工的な自然公園」の無意味さに気付いてほしいし、温泉も同様。
温泉大好きだからこその、苦言である。


タグ:その他