注文を断る店「リーベ」

ある県北の、小さな役場前通りにある、小さな店。
南側の壁面には、でかでかと、しかも赤い塗料で「○○牛ステーキ」と書いてある。
入口には「ファミリーレストラン」と書かれ、くぐろうとする暖簾は「ラーメン」と染め抜かれ、店内に入ると昭和の香りがするウエスタン調のウッディな歌声喫茶風。
なんじゃそりゃ?と思う人と、知ってる!という人、どっちが多いだろうか。

その日取材のために、その町に到着したのは16時頃。
インタビューは17時半から、撮影も含めて対談形式で2時間程度の予定だったから、早めの夕食を済まそうと、午前中から活動していた先発隊と合流後に、その店に入る。

先発隊は昼食にラーメンを食べたということで「スパゲティにしよう」(パスタではない)とか「カレーにしよう」とか言っている。
僕は、そうだなー、ハンバーグがいいかなーと、ほぼメニューを決めたタイミングで、店のオヤジがやってきた。

「えーっと、カレーください」
「俺は、このミートソースを」
「それと、ハンバーグ定食で」


「うちは、味噌ラーメンがおすすめです」


・・・?
「そっか、でも、ラーメンは昼に食べたしなー、やっぱりカレーでお願いします」
「じゃ、俺もミートソースで」
「えーっと、僕は…」


「うちは、味噌ラーメンがおすすめです」


・・・?

ナニナニ???
だから、違うって、味噌ラーメンは食べたくないんだって!


「うちは、味噌ラーメンがおすすめです」


・・・?
わかりました、わかりました、そこまで言うなら頼もうじゃないの!
その代わり、不味かったら金払わないからね!

「じゃ、、、味噌ラーメンください、みんな」

わかりました、とも言わずに厨房に戻るオヤジ。
きっと、ラーメンしか仕込んでないんだぜ、などと中傷、文句をたれながら持つことしばし。
テーブルに運ばれてきたのは、レンゲに辛みそがのったボリュームたっぷりの味噌ラーメン。
(これで、もし醤油ラーメンが出てきたら、それこそびっくりしたろうなー)

食します。

おいしいです、はい。
ラーメンに限らず食べ物は人によって好き嫌いが別れるけど、味噌ラーメン嫌いの僕が、正直「美味い!」と思いましたし、それ以来、味噌ラーメンファンになってしまったという事実で、その味の良さを理解してもらえれば。
この店、金山町の「リーベ」って言います。
後でいろいろな人にこの話をすると、知る人ぞ知る、ラーメン通の間でも話題の店でした。
今はその時の店が全面改装され、キレイなこじゃれた店構えになっていますが、店が新しくなると味が落ちる、前の方がおいしかったよなー、とよく言われるように、僕もそんな気がします。
いえ、充分今もおいしいですから、行ってみて損はしません。
きっと、あの頑固オヤジの住み処のような薄暗い厨房を含めたアンバランスなお店の雰囲気が、ラーメン自体のおいしさをさらに引き立ていたのだと思います。

「新しく作られた雰囲気」と、「自然に醸し出されていった雰囲気」と、どちらがいいかは一概に言えないけど、どちらが貴重かは、答えが簡単ですね。
取り戻せない方です。


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